学園と寮での生活について綴った日誌
Dear God...


神様なんて何もしてはくれない。



一応これでもオレは、身寄りがない少年として
短くない期間を修道院で過ごした。
そう、15歳の頃までだ。
主に祈りを捧げて然るべし、敬虔な信者として育つのが当たり前・・・
なんて思うだろ?



でも神様ってヤツに、人生を振り返って悪態の一つもついてやりたくなる。



天涯孤独なんて思っていたらいきなり実の母親が名乗り出てくるわ



その母親に危ない薬を飲まされて死にたくなるわ



かと思えばどこから現れたのかその後実の父親に引き取られるわ



その日からいきなり血を分けた兄弟が三人できるわ



けれど上の兄からは忌み嫌われるわ



さすがに薬を盛られることはなかったけれど、
よくもまぁ腐らずに育ってきたと我ながら感心する。



そして、今日だ。



その修道院で同じ時を過ごしたあの泣き虫マリカが、
養女としてバラデュール伯爵家に引き取られたという事で・・・
オレ達はここキングス・カレッジ・オブ・ヘイスティングス、
女子寮である第五寮プレザンスのミス・ヴェルニエの部屋で
再会する事になった。



数年ぶりに感動の再会・・・オレが神様ならマリカの涙に
大天使達の奏でる賛美歌の一つもつけて祝福したい所だ。
そして「主よ、再び出会うことができたこの奇跡に感謝します」
なんてどちらかが言うんだろう。



ところが祝福の賛美歌どころか・・・
再会の抱擁を予測して両手を広げたオレの左頬に飛び込んできたのは・・・
固く、怒りに満ちた拳だった。



貴族に引き取られてどれだけおしとやかになっただろうと思って
いたけど・・・まったく、何も変わっちゃいないな!



いや、成長したというべきなのか?
昔はガルト辺りにいじめられて、
泣いて喚いて暴れてる所を仲裁に入って殴られるなんて事もあったけれど・・・
あんなにキレのある拳は初めてだ。



主よ、あれにはもうぶたれたくないので、右の頬は差し出せません。



・・・考えてみれば忙しさにかまけてマリカの手紙に
まったく返事をしなかったオレが悪かったわけだけど。



でも・・・まぁ・・・



オレの事が心配で泣いてくれる人がいるっていうのは



怒らせておいてなんだけど・・・嬉しかったかな。



・・・ともかく!



神に祈ろうが人生は地獄に堕ちることもあるし



貴族になろうが人は立派になるわけじゃない



だったらオレの人生は、オレが信じるもののために生きてやる。



神にじゃない、このそろそろ赤く腫れ上がってきた左頬に誓って!



・・・



・・・ん?



赤く腫れ上がった・・・頬?



・・・オレは今、ミス・ヴェルニエの部屋から出てきていて



これから、この女子寮をそそくさと出て行く。



入る時にはなかった、赤く腫れ上がった頬を携えて・・・



・・・



・・・



・・・



ユーンや、他の女生徒に見つかることなく、この女子寮を出る。



それまでは・・・神に祈る事にしよう。
12:00 (5ago)クライド・ハンニバル・ドーソン - -
like an aristocrat


「・・・え?」



「・・・え?・・・じゃないですよ!
何回『ドーソン先輩』って呼んだと思ってるんですか!!」



「あ・・・それは・・・いや、なんでもない。ゴメンゴメン」



「・・・??」



怪訝そうな表情を浮かべて彼がこちらを伺う。
言い訳したいような、申し訳ないような気持ちが駆け巡ったが、
結局視線を逸らして曖昧な笑顔を浮かべる事しかできなかった。



「いやぁ・・・それにしてもこの学園は広いよなぁ・・・
 君のおかげでこうして女子寮に辿り着くことができたけれど・・・
 ホントにここ、第五寮のプレザンス?
 オレにはさっき通り過ぎた第三寮と見分けがつかないよ・・・」



荘厳な佇まいを見上げて思わず感嘆の吐息が漏れる。
オレ達が過ごしたあの修道院よりずっと立派だ。
横目にチラリと、案内を申し出てくれた後輩を見てみると
先程の表情に輪をかけて、呆れた顔をしていた。



「先輩って・・・優秀なんだかそうでないんだかわからない人ですね・・・
 このヘイスティングスに編入して以来その才覚で瞬く間に有名人となった
 ドーソン先輩・・・それが今目の前にいる人だとは思えません・・・」



随分、歯に衣を着せぬ物言いだなぁ、とは思いつつも
的を得ているな・・・と思わず得心してしまう。
才覚なのかどうかはわからないが、とにかくこの学園での生活は
今までのそれとは違いすぎた。
目の前の彼は少なからずオレに敬意を抱いてくれているようなのだが、
何に対してかはわからない。
つまりその辺りがにわか貴族のオレとの感覚の差なのだろう。




「さて・・・それじゃあボクは作業に戻りますよ。
 いくらオープンキャンパスとはいえ、ここは女子寮ですからね。
 何の用事かは知りませんがドーソン先輩、気をつけてくださいよ」



「ああ、ありがとう」



手を振って後輩を見送る。
何に対してかは知らないが、幾分満足そうな面持ちで彼は去っていった。



「さて・・・それじゃあ行ってみようか」



まずは・・・というかそれが目的なんだが、ミス・ヴェルニエの部屋を探さないと。
彼女から貰った手紙を頼りにプレザンス内に歩を進める。
入ってみると第一寮エディントンにも劣らない、上品かつ華美な内装に目を奪われた。
さすがは良家の子女が集まると言われるキングス・カレッジ・オブ・ヘイスティングスの学生寮だ。
だがいまや自分もその良家の御子息なのだと考えると、苦笑いせざるを得なかった。



「ドーソン・・・かぁ。なかなか慣れないもんだよなぁ・・・」



この学園に来て以来、そう呼ばれる事が当たり前になった。
以前は年が上だろうと下だろうとファーストネームで呼ばれることが日常だったのに。
・・・これが貴族の社交というものなのだろうか。
それとも、突然現れた本当に貴族かどうかも怪しい、どこの馬の骨ともわからぬ者への侮蔑・・・
と考えるのはさすがに卑屈か。



ともあれ十八年間連れ添った「クライド」と、袖を通して三年弱の
「ドーソン」とではどうしても前者に愛着があった。
今この学園内で「クライド」と呼んでくれるのは入学して間もない弟と、
これからミス・ヴェルニエが引き合わせてくれる事になっている彼女くらいだろう。



「マリカ・アルシア・バラデュール・・・か。大層なお名前だ」



養子として引き取られた、とは聞いていた。
それも名家として名高いバラデュール伯爵家に。
お互い名門と呼ばれる家に引き取られて、
そして今は名門と謳われるパブリックスクールに通っている。



あの修道院にいた頃からは想像もできなかった。
何一つ物に不自由しない暮らしも、自分が動かなくても身の周りを整えてくれる便利な環境も、
・・・わざわざ段取りを組まないと家族にも会えないこの窮屈さも。



「マリカは・・・アイツもオレみたいに、多少の違和感とか、
 息苦しさみたいなものを感じたりしてるのかな・・・」



・・・いや、逆に馴染んだりなんかしてたりして。
マリカは素直な所があるから、いまやどこから見ても良家のお嬢様!
・・・なんて事もあるのだろうか。



だとしたらオレの事を
『ごきげんよう。ご無沙汰をいたしております、ミスター・ドーソン』
・・・なんて呼んだりするのだろうか。



「うへぇ・・・それは勘弁してもらいたいなぁ・・・」



じゃあオレはアイツに対して
『お綺麗になられましたね、ミス・バラデュール』なんて言うのか?
いやいや、それは無理だろう。
第一その言葉を淀みなく言う事より、にやける顔を我慢する方に苦労するに決まってる。



「・・・あぁ、クライド様・・・」



そうそう、やっぱりそうでなきゃ。
オマエはオレをクライド、って呼ぶ。
当然、オレはオマエをマリカ、って呼ぶ。
それでいいし、これからもそうでいたい。



・・・でも、『様』はおかしいだろ『様』は。
どこでそんな中途半端な言葉を覚えてきたんだよ・・・って、え?



声がした方に振り向く。
少女が一人、立っていた。
勿論、マリカじゃなかった。
オレの名前を呼んでるのに、オレの存在には気づいていない。



でもちょうどよかった。
彼女にミス・ヴェルニエの部屋がどこにあるのか聞いてみよう・・・
15:00 (5ago)クライド・ハンニバル・ドーソン - -
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